何とはなしに、話半分

男子学生の考え事などをお送りするところ。

laundry

夕方に降り出した雨は、どうやら朝まで降り続けるようだ。大粒の雫が信号機や街灯に照らされてやけにゆっくりに見える。僕は外に干せない洗濯物を抱えて近くのコインランドリーに来ていた。タオルを乾燥機に放り込んで百円玉を二枚入れる。残り時間を示すディスプレイに20のデジタル数字が灯るのを確認して、僕は傘を手に再び外へ出た。

 

秋の夜風と雨のせいで肌寒い中、僕は半袖のTシャツ姿でビニール傘を差して歩いていた。瞬く間にスニーカーの中に水が染みてきて、靴下までぐっしょりと濡れてしまったが、それも構わずに歩き続けた。外苑東通りを南に向けて下り、しばらく進んでまた引き返した。途中に二人の酔っ払いを追い越し、二組のカップルとすれ違った。

 

あっという間に二十分が過ぎ、僕はコインランドリーへ戻りタオルの乾き具合を確かめる。バスタオルが微妙に湿っている気がしたので、百円の硬貨をもう一枚投入した。今度は外へ出ず、中で待つことにした。誰もいないランドリーの中。誰かが使用している洗濯機の水流の音と、僕が回している乾燥機の音が静かに響く。パタパタとタオルが回り叩きつけられるのをじっと眺めていると、一人と男がランドリーへと入ってくる。洗濯物を袋から取り出して乾燥機へ詰め込んだと思ったら、外に置いてある自販機で飲み物を買い戻ってきた。まるで三十分前の自分の映像を見ているかのようだった。

 

僕の乾燥機が止まり、運転の終了を告げるアナウンスが聞こえてくる。実家にいた頃の給湯器の音声を思い出し、温かい風呂に入りたくなる。帰ったら少しだけ湯に浸かってから寝ようと思った。どうせすぐに布団に潜っても、しばらく眠れないのだから。

 

僕は夜になると不安で堪らなかった。ベッドに入ってもすぐに明日が来てしまうことも、明日になっても特に幸せを感じる瞬間もなく一日が終わってしまうことも、僕はこのままで良いのかと誰かに問われている気がして落ち着かなかった。今の暮らしが、今の仕事が、そして向かっている将来がこれで良いのか。いくら考えてもきっと正解が分かることも無いのだろうけど、いくらでも考えてしまうのがこの手の悩みには付き物だった。

 

せめて誰かが隣に居てくれたら、誰かの肩に身を寄せることができたら、少しは楽になれていたのだろう。柔らかい髪の毛の匂いや体温に気が紛れて、心地よく眠れたのだろう。そう思うと、先ほどよりも寂しくなった。外の雨も気にせず、どこかへ飛び出していなくなってしまいたかった。結局のところそうすることもできず、僕は風呂場で狭いバスタブにお湯を溜めて、電気もつけずに膝を抱えて温まる。このまま朝が来るまでこうしていたかった。

 

僕は風邪を引く前に浴室から出て体を拭き、髪を乾かして歯を磨く。気づけばランドリーにいた頃から一時間以上が経っていた。休みの日は時間が経つのが早く感じる。過ぎて欲しくない時間も季節も、気づけば僕の後ろへと流れて行って、僕は不安なまま先へ先へと送り出される。移ろう季節にも、離れていく人にも、僕は心の中で別れを告げることもできず、ただただ寂しさを感じて膝を抱えているだけだった。